複合交流拠点施設の用地取得契約差し止め提訴

訴 状

2021(令和3)年9月24日

水 戸 地 方 裁判所 御中

原告ら訴訟代理人

弁護士 大 川 隆 司

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

契約締結差し止め請求住民訴訟

訴訟物の価額 金1,600,000円

貼用印紙   金   13,000円

請求の趣旨

1、 被告は、かすみがうら市と株式会社日立インダストリアルプロダクツとの間の2021年5月31日付合意書に基づく、別紙物件目録記載の土地を対象とする売買契約を締結してはならない。

2、 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

1 当事者

原告らはいずれも茨城県かすみがうら市(以下、単に「市」という)の住民である。

被告は市の執行機関である。

2 事案の概要

本件は、被告が「複合交流拠点施設整備事業」の用地として購入する目的で締結しようとしている土地売買契約の対象土地が、同事業推進のために必要なものではなく、また、その目的のために必要とする面積をはるかに超える広大なものであり、かつ予定する価格が著しく高額であることに照らし、地方財政法第4条1項および地方自治法第2条14項に違反するので、原告ら住民が、当該契約締結行為の差し止めを求める住民訴訟(地方自治法第242条の2、第1項1号)である。

3 本件土地売買契約締結行為の確実性

(1)「合意書」の締結

市と訴外株式会社日立インダストリアルプロダクツ(以下「訴外日立」という)は、別紙物件目録記載の訴外日立所有地(以下「本件土地」という)につき、その「売買の基本的な条件」に関して、本年5月31日付で「合意書」を締結した。

その内容は、

①  訴外日立と市が、本件土地を対象とする売買契約(本件売買契約)を締結する意思を有することを相互に確認する。(第1条)

②  売買価格は本件売買契約締結時に市が行う不動産鑑定評価による。(第2条(1)②)

③  本件土地の引き渡しは2023(令和5)年3月31日までに行う。(第2条(2)①)

④  売買に関する最終的な協議が整った場合に本件売買契約を締結する(第4条)。

というものである。

(2)関係予算の成立

本年3月の市議会定例会で成立した、令和3年度の市一般会計予算中の債務負担行為(第2表)には、令和3年度から4年度までの期間に、「11億円に令和4年度に実施する土地鑑定評価の結果に伴う増減額を加算した額」を限度とする「複合交流拠点施設等取得費」が含まれている。

ここに「11億円」とあるのは、本年1月7日付で市に提出された不動産鑑定士井坂雄作成の不動産鑑定評価書(以下、「井坂鑑定」という)において本件土地が「10億3000万円(35,400円/㎡)」と評価されていることを受けたものである。

(3) 差し止め請求要件の成立

財務会計行為の差し止めを求める住民訴訟(ないしそれに先立つ住民監査請求)は、「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される」ことを要件と定めている(地方自治法第242条1項)。

前記(1)および(2)の事実は、本件においてこの訴訟要件が明らかに成立していることを示している。

4 本件契約の違法性(1)―対象土地の不要性および過大性

(1) 複合交流拠点施設等整備に関する市の計画の内容

2005(平成17)年に旧霞ヶ浦町と旧千代田町が合併して成立したかすみがうら市は、旧町の各庁舎にあたる2つの「地域拠点」を有するが、旧2町の結節点に当たる神立駅周辺には各種生活利便施設は存在するものの住民が交流するための施設を欠いていた。

「第2次かすみがうら市総合計画」(2017年3月策定、計画期間2017-26年度)を受けて市が策定した「中心市街地土地利用基本構想」(2020年3月)によれば、「みんなの居場所や町の広場となる地域の交流拠点」を神立駅の周辺に作る、ということが複合交流拠点施設等整備事業(以下、「本件事業」という)のコンセプトであった。

(2) 本件事業の規模

前記「基本構想」で検討されている本件事業の機能ごとの所要面積は、以下のとおりである。

①  学習スペース100㎡

②  会議・学習室100㎡

③  図書閲覧スペース300㎡

④  カフェ・オープンテラス100㎡

⑤  キッズスペース50㎡

⑥  市民ホール450~500㎡

⑦  エントランス・待合スペース250㎡

⑧  防災備蓄倉庫50㎡

⑨  観光情報コーナー25㎡

⑩  地域情報コーナー25㎡

⑪  行政窓口・事務スペース70㎡

⑫  広場・防災公園3000㎡

上記のうち建物の構成部分は①ないし⑪で、その合計面積は1520~70㎡である。従って、建物全体を平屋で建築したとしても、敷地の面積は⑫の目的に用いる土地とあわせても5000㎡で足りる。

(3)  本件土地の過大性

本件土地は、日立製作所の社宅(通称「筑波ハウス」)の敷地として今年3月まで使用されてきた土地であるが、その面積は約29,000㎡という広大なものであり、市が計画している複合交流拠点施設等に必要な面積約5,000㎡を著しく超過している。

市も当初は訴外日立に対して、本件土地のうち東端の部分約5,000㎡だけの買い取りを申し出たのであったが、29,000㎡一括でどうかとの打診があり、それを受けて、本件合意に至ったとの説明である。

(4)  本件土地の不要性

他方、市は市街地の中心部に約5,000㎡の土地(元保育所および出張所の跡地)を所有しており、これを「稲吉ふれあい公園」として管理している。

また、市は「稲吉ふれあい公園」に隣接する場所に、掘り込み式・開放型の調整池(面積4,600㎡)を整備する計画を有している。調整池は非常時に雨水を蓄えるための施設であるから日常的には公園として利用できる。

要するに、市は本件事業の敷地として新たに土地を購入する必要はなく、すでに所有している「稲吉ふれあい公園」の敷地をこれにあて、同公園に代わるものとして調整池を利用すれば足りる。

すなわち、本件事業のために本件土地を購入する必要性は全く存在しないのである。

5、本件契約の違法性(2)―予定購入価格の高額性

(1)  井坂鑑定の杜撰さ 

市の債務負担行為の前提となった「井坂鑑定」は、前述のとおり本件土地の㎡あたり単価を35,400円と鑑定したが、その鑑定理由はきわめて杜撰なものである。

たとえば、比較対照すべき取引事例として採用した5か所の土地の平均面積は1,419㎡という小規模のもので、本件土地29,000㎡とは全くかけはなれている。

また、同鑑定は「土壌汚染を疑うような土地利用はなかったものと推察される」という前提で実施されたが、実は市が道路用地として日立製作所から本件土地の隣接地を2015(平成27)年度に買い取った際に、大量の建設廃材が出土した事実があった。井坂鑑定は、立会人を全く求めないまま、このような重要な事実を看過して実施されたもので、信頼に値するものではない。

(2)  実際の相場との乖離

本件土地に近いスーパーマーケットの跡地約800坪が、坪あたり5万円(㎡あたり15,151円)で今年売買された、という事実に照らしても、井坂鑑定は実勢価格の2.3倍となり、あまりにも高すぎる。

6 住民監査請求の経由

原告らは本件請求と同趣旨の住民監査請求を市監査委員に対し本年7月5日付で申し立てた。請求棄却の監査結果(本年8月24日付)が、翌25日に原告らに到達した。

7 結論

地方自治法第2条14項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と規定している。

また地方財政法第4条1項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない」と規定している。

本件事業のために本件土地を購入することは、そもそもその必要性を欠くものであり、仮に百歩譲っても、その面積および予定購入単価の双方において最小の限度を超えるものである。

従って本件契約は前記各法条に反する違法なものであり、その締結を禁止されるべきものである。

立証方法

口頭弁論期日において必要に応じ提出する。

添付書類

1、 住民監査請求に基づく監査結果(写)1通

1、 訴訟委任状21通

物 件 目 録

所在  かすみがうら市稲吉南二丁目

地番  2625番3

地目  宅地

地積  29,096.29㎡

かすみがうら市議会議員矢口りゅうじん

市民が主役の市政を実現してまいります。

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